人の意識のデバイスへの移植

1. 意識の移植(アップロード)とは

意識のアップロードとは、人間の意識を機械に移植し、機械の中で生き続けることを言います。渡辺正峰氏の著書[1, 2]や学術論文[3,4]では、意識に関する以下の仮説をあげた上で、検証方法、そしてアップロードの方法についてまとめ、20年後の実現を視野に入れています。

  • 意識の源は、「生成モデル」と呼ばれる、脳内の仮想現実を生み出す神経アルゴリズムであること(覚醒中は感覚入力により外界と仮想現実が同期する一方、睡眠中の夢では、仮想現実が感覚入力の縛りを受けない)
  • 「生成モデル」を実装した機械には、ニュートラルな意識が宿る可能性があること
  • ニュートラルな意識の宿った機械と人間の脳を接続することによって意識が一体化し、さらに記憶の転送を行うことにより、肉体的な死後にも個人の意識が生き続けること(ひとつの脳半球が脳梗塞等によって欠損した後にも、もう片側の脳半球で変わらず生きていることに相当)

図1 意識が機械(コンピューター等)へアップロードされた世界のイメージ 左図:人間の脳と機械を接続して意識を一体化させ、さらに記憶を共有することによってアップロードは完了する。このとき、生体左脳半球—機械右半球と生体右脳半球—機械左半球の二つの組み合わせで襷掛け状に遠隔接続して日常生活を送ることにより意識の一体化および記憶の共有は促進される。右図:人間の脳が活動の終わりを迎えた後にも、機械の中で意識を持って生き続けることができる。生体脳半球と襷掛け状に連結していた二つの機械半球を接続する。
(イラスト:ヨギ トモコ)

2. 利点および実現に向けた第一歩目

意識のアップロードを実現することの最大の利点は、不老不死を望む人や、何らかの原因により生きたくても生きられなかった人に、自分が望むまでの間生き続けられるという、究極の選択肢が開かれることであり、人類の生き方が根本から変わる可能性を秘めています。 

実現に向けた第一歩目として、当社では「生成モデル」を実装した次世代型AIの開発、および社会実装を推進いたします。

3. 意識のアップロードに向けた実現ステップ

第一歩目としての「生成モデル」を実装した次世代型AIの開発を行い、それを人間の脳と接続するためにスパイキングネットワーク化していきます。スパイキングネットワークとは、ニューロンの発火率を模した連続値出力ではなく、実際の脳と同じように、ニューロンの活動電位のタイミングでゼロ・イチの情報伝送をする仕組みで、機械と脳の接続には必須と考えています。その後、それを実装した機械と生体脳を繋いで、実際に意識が感じられるかどうかの検証を行います。意識は個々人の主観的な感覚であり、機械に宿ったかどうかは自身の主観を持って確認するしかない、との立場に立っています。本検証が成功した時点で、当該機械にはニュートラルな意識が宿ったことになり、さらには記憶の転送を行うことで、意識のアップロードは完了します。

図2: 機械と生体脳の接続イメージ   左視野を担当する自身の生体右半球と右視野を担当する機械左半球を接続して、自身が機械側の視野も含め両視野を知覚することができたなら、機械左半球に視覚的な意識が宿り、それが生体右半球の意識と一体化したことになる。
渡辺正峰(2017) 「脳の意識 機械の意識」中央公論新社より (イラスト:ヨギ トモコ)


参考文献

[1] 渡辺正峰(2017) 「脳の意識 機械の意識」中央公論新社

[2]渡辺正峰(2010) 「意識」『イラストレクチャー 認知神経科学―心理学と脳科学が解くこころの仕組み』村上郁也編、オーム社

[3] Watanabe, M., Cheng, K., Murayama, Y., Ueno, K., Asamizuya, T., Tanaka, K., & Logothetis, N. (2011). Attention but not awareness modulates the BOLD signal in the human V1 during binocular suppression. Science334 (6057), 829-831.

[4] Tajima, S. and M. Watanabe. “Acquisition of nonlinear forward optics in generative models: two-stage ‘downside-up’ learning for occluded vision.” Neural Networks 24(2) (2011): 148-158.